花村泰江

Standard

2021/9/18(土)- 10/3(日)
12:00 - 19:00 月、火休廊

花村泰江 経歴

作品にしたいなと思うものは、大概フツーのもの。見慣れた日用品、家族の所有物、身の回りの家具、家電・・・。だからモチーフは周りにゴロゴロ転がっているので、すぐに見つかる。しかし当たり前だが、それを作品にしていくところからが大変で時間を費やす。木版コラグラフの場合、どんな素材を選びコラージュしていくか考えるのも重要で、その効果を予測しながら作品の内容や構図を決めて行く。

今回の展示タイトルにもなっている作品「standard・I」も、そんな中で生まれた作品だ。普段使っている定番の電子レンジをモチーフにすることは決まっていたが、それをどう表現するのかが重要で、空中に浮かせるのか芝生に置くのか、または爆発させたり・・・色々設定を迷ったがなかなか決まらなかった。とりあえず電子レンジパーツだけをまず制作してみる。今回選んで使用した素材は、白ボール(レンジ本体ボディ)、段ボール(レンジ側面)、マーメイド紙(ツマミ)、竹尾ペーパー(取手バー)、滅菌ガーゼ(ガラス面)、ジェッソ(通気孔等)。なかなか良い感じのクラフト電子レンジが出来上がった。さて、版木を用いて作る背景(設定)をどうするかが問題だ。2〜3日試行錯誤してみるが、やはりなかなか決まらない。何度も台所に足を運び電子レンジ棚をじーっと見つめているが、お母さん何か料理作ってくれるのかと思いきや、何もせずまたアトリエに降りていく。そんな事の繰り返しの中、とりあえず棚だけは制作してみようと思い立つ。段ボールの棚が出来て少し画面が落ち着いてきた。その棚を支える金属のレールもボール紙で制作してみることにする。電子レンジが居場所を得たように思えた。やはり全て完全に再現してみようという思いに至り、結局、コンセントやレンジの横に置いてある水筒、ワイヤーラック、レンジ背後の出っ張り部分のために大工さんにくり抜いてもらった背後の壁まで再現した。やはり普通の実際の状態(standard)が最もしっくりくるのだなあという結論に至った。そして、何とか版が完成したので、次の日から刷りの工程に入れる!とほっとしたのも束の間、コラージュし終えた版にクリヤーラッカーをかけるつもりだったのだが、何と全く気づかずにスプレーボンドを噴射してしまうという大失敗をしでかしてしまった。通常ラッカーでツルツルにコーティングして刷りやすくするところが、逆に版の表面がベトベトになってしまい、目の前が真っ暗になった。次の日になってもベタベタしていたので、仕方なく溶剤で全面を拭き取るという余計な工程が加わってしまった。これがなかなか手強く、結局完全には拭き取れなかった。しかしこれによりレンジ本体の表面に、ざらざらとしたマチエールが得られ、なかなか良い具合となった。版画にトラブルは付き物で、毎回何かが起きるが(今回は自分の不注意だが・・・)、否応なく臨機応変に対処して前に進んでいく力がだんだんついてきたような気がする。

余談だが、この夏は、エルビス・コステロをヘビーローテーションで聴きながら制作していた。standard numberは何度聞いても飽きないしまた聴いてしまう。曲に限らず、やはりstandardの中にこそ新しいものが潜んでいるのではないか・・・と思う。

今回の展示で、怪我の功名で得た完成作品を含め、これまで制作してきたstandardな数々の作品の中から何かご自由に感じ取ってていただければ幸いである。

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