木ト霊

ことだま

2018/3/24(土)- 4/8(日)
12:00 - 19:00 月、火休廊

大島康幸 経歴 
黒須信雄 経歴 
小島敏男 
田邊正樹 
若宮綾子

オープニングレセプション 
3/24(土)17:00-19:00

このたび木彫による企画展「木ト霊 ことだま」を3/24(土)より4/8(日)まで開催致します。石や金属など彫刻の素材はさまざまですが、いずれも素材としての物質の選択が表現の内実を決すると云ってよいほどの深い結びつきがあります。なかでも木と云う素材は有機体として生命を保っていたものです。その意味では、伐採され加工された木材は一種の仮死状態にあるとも云えます。ならば木彫とは、その再生、木材の内奥に潜む命(霊)を彫り起こすことでもあるでしょう。彫ることによる呼びかけとそれに対する木材からの答えは恰も木霊の如くです。これは木と人との出会いであり、こと(事、言)の発生であります。いにしえ日本では事と言は峻別されておらず、どちらもコトダマの働きを伴うものでした。

本展は、それぞれ異なる独自の思考と表現を持つ出品作家の各様の表現に、木を彫ると云う〈こと〉がどのように通底しているかを探るものです。それはまた、事と言が分離する以前の感性への呼びかけでもあります。

大島康幸 / Yasuyuki ŌSHIMA

木霊 ―こだま―

柿の木を彫っている。
群馬の実家に生えていたのだが根腐れしてしまい30年ほど前に親父が伐採したものだ。太い幹だけ残して裏の物置の壁に縛り付けてあった。長さ2メートル、直径15センチ足らずの丸太だったが小さなのこぎりで挽こうとしたのだろう、切り口付近には鋸の激闘の跡が残っている。最終的には無理矢理折ったようだ。不器用な親父らしいと思った。
この柿は渋柿だったが毎年沢山の実をつけ「樽抜き」と呼ばれる焼酎で渋みを抜いたものは実家では恒例の秋の味覚だった。物置で長年無造作に放置されていたため芯から表皮に向かって長い縦割れが入っており、その時点では使い物にならないと思っていたがなんとなく気になったので物置の片付けついでに横浜のアトリエに持ってきていた。ちょうど折も折、頼まれていた干支の彫刻の材料を探していたところ目にとまったのがこの柿だ。通常は材料の詳しい素性などわかりようもないのだが、夏に生い茂る新緑の葉、秋にはたわわに実る柿の朱、様々な記憶が思い起こされた。
今回の出品作品を何にしようかと思案していた矢先、展覧会のテーマが「木霊」 (後に「木ト霊に変更」) と知り、制作途中で放置してあったこの柿の木の作品を仕上げることにした。この柿の木を選んだことは単なる偶然かもしれないが、この木を選んだことでこの形になったことは確かである。新しいかたちとなって生まれ変わった柿の木はなりたいかたちになっているだろうか?
私は木霊(魂)の声を聞けていただろうか?

「鵙」木彫・柿 60x15x15㎝, 2016

黒須 信雄 / KUROSU NobuoŌSHIMA

 私の木彫は彫刻ではなく絵画に出自が在る。時として統合體たる絵画が或種の飽和によって外部への分節を要請することがあるものだが、私の場合たまさか木版画と云う反転がそれに即応した。木版画の反転は版木を彫ることとそれを紙に刷ることの二重性を孕むけれども、版木から紙への反転を全く別の方向,乃ち立體物へと転換したらどうなるか、その試みから〈顕れた〉のが私の木彫作品である。当然ながら、それは虚から実への転換ではない。絵画が存在論的遡行意志に基づく存在形式転換としての顕現である以上、その分節に実が在るとするなら、専ら虚としての実のみである。私にとって重要なのは、かたちを彫り出す若しくは生み出すと云う能動的営為ではなく、木彫作品なるものが畢竟彫ると云う行為そのものには直接関与しない、謂わば彫り遺しだと云う営為の不在なのである。絵画は営為として虚の拡氾に結ばれるが、実體を有する木彫は営為不在に於て虚を凝集するのである。

「虚裔96」木彫・杉 9.5×9.5×36.5cm, 2017

小島敏男 / Tosio KOJIMA

私の作品は直彫りによる木彫です。塊である材を彫り込みながら形態を探していく、粘土のように付け足していくのではなく、取り除いていく制作方法に拘っています。
出品作は、二つの葉のモチーフをそれぞれ正面性を持つレリーフ状に、二つの正面が持つ視線が交差するように彫り進めたものです。交差が視線の捩じれを誘い、そこに新たな空間が作品を見る人の前に立ち現われます。

「無題」しな材 H76×W35×D30cm, 2014 年

田邊正樹 / Masaki TANABE

色とかたちや線により絵はイリュージョンとして成りたっているのですが、私は空に投げ出したものを縒(よ)りながら、紡いでいる様な気がします。

「Untitled」イチョウ 17×16×16㎝, 2017

若宮綾子 / Ayako WAKAMIYA

制作について

身近な場所で手に入るシナベニアや角材を使用し、生活用品の形をモチーフとして家庭という小さな集合体から社会を考えています。
暗雲としたでも淡々と生活する家族や人々の儚くも逞しい佇まいほど「美しい」のではないかと気づいた今、私に出来ることは木片をただ彫り続ける事ではないかと感じています。

「Untitled」シナベニヤ、パステル 4×18×2.5cm, 2017

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