
極微点乃連珠絲とは、大石凝真素美の提唱する始原以前の始原の元素の如きものであって、それ自體としては宇宙乃至世界創成譚の祖型のひとつのタイプに相応し、必ずしも独一ではないが、その元素が「ス」音であり、声音的言霊が物質世界をも創出するとの考えは矢張り特異と云うべきであろう。何となれば、声音は本質的に「かたち」を固定するものではなく、そこから導出される「かたち」は謂わば〈ゆれ〉や〈ふるえ〉や〈ひびき〉と云った非固定的な動態だからである。一般的に云って、これは物質の在り方に相当しない。然るに、物質的基盤に於て創出されながら、それ自體として非物質である処の絵画とはまさにそのように〈在る〉。原言語システムと共に、この声音的言霊学は絵画の基底を成す動態の無限階梯と深く関わるものである。
様式としての〈絵画的〉平面と絵画それ自體を実際的に峻別するのはまず第一に、プレ絵画構造に於ける〈分節し得ない顕現即消滅の無限階梯の設定〉に拠るのであって、それは、物質と成り得ない儘に然しそのこと自體に於て物質としてしか現出しない、と同時に〈存在する〉への指向性とは別の〈存在〉の、無方向的ベクトルに於ける無限の位相的転換の継起を齎す。その點からするなら絵画とは絵画的形式を超脱する一形式とも云えるが、いずれにせよ絵画それ自體の問題とは常に不可能性としてしか提起され得ない。
2025年10月17日 黒須信雄




