酒井稚恵 —君のポエムが聞こえる—

2012/12/1(土)– 12/23(日)

12:00–19:00 月曜日、火曜日休廊

 

Artist talk 12月1日(土)15:00 –

Openingreception 12月1日(土)  17:00 – 19:00

作家経歴 / 展覧会情報 (PDF)

このたびGallery惺SATORUでは、12月1日より酒井稚恵 個展"君のポエムが聞こえる"を開催致します。

酒井稚恵(さかいちえ、1977生)は、チェック、ドット、モチーフ、ストライプといった様々な柄の既成布を用い、ニードルワーク(針仕事)による立体作品、インスタレーション作品を制作しています。

在学時代ファイバー・アートに魅力を感じた酒井は、縫うことによって布を変化させていくようになります。フェミニンやガーリーなイメージを作り出す、洋裁のシャーリング、スモッキング技法にも似た独自の方法を既成布にほどこして立体作品に仕上げていきます。手のひらに乗る作品から何メートルもある大作まで、作品は国内外で展示され好評を得てきました。

今回の展覧会ではクマやハートといったモチーフ柄による作品を中心に、大作と立体作品で構成いたします。実際に手を動かし布と対話するようにしてイメージを広げていった作品は、軽やかでユーモラスです。それぞれのモチーフからどのようなポエムが聞こえてくるでしょうか?

「君のポエムが聞こえる」

わたしがいつも使うのは、機械で大量生産された布。

ひと針ひと針縫い縮めていくと、クールだった布の表面温度がふんわりと上がり、

イメージがたちあらわれる。

それは、布のフリルやギャザーの下に隠れた少女の肌が囁くポエム。

わたしは、静かに耳をかたむけて、そのポエムをうたう。

くまさん、いちご、お花柄など。

今回は、モチーフ柄の布ばかり集めて、彼女らのポエムをうたいたいと思います。

酒井 稚恵

布に仕掛けられたわな ―福本繁樹(染色家)

布はつねに肉体と密接な関係にある。布は、肉体をつつみ、透かし、隠し、見せて、魅せる。布には風合いがあり、色や柄があり、しぼ、ちぢみ、ふくれ、プリーツ、ギャザー、ドレープがくわえられる。全感覚にうったえる周到な演出のためである。

世界にじつに多様な布があるが、その布は、個人の感性によって、また目的に応じて、注意深くえらばれる。そしてつかわれる。だから布をみるだけでも、布にふさわしい使用主のジェンダー、国籍、年齢、性格、感性などの人物像と、布が機能する場面や時代のイメージが、個々の布から喚起される。こうして個々の布に、個々の人物・場・時のイメージがはりつく。それは、布が衣服のかたちをもったばあいなおさらだ。

われわれは日々肉体とともに布をみる。おびただしい数の布を観察する。布に親しみ、やすらぎを得て、ときには幻惑され、翻弄され、布に仕掛けられたわなのとりことなる。

酒井稚恵は、布に一針一針の縫いによって、プリーツと柄をあやつる。その布は、市販の織やプリント地からえらぶ。水玉、ストライプ、チェック、そしてクマさん、いちご、てんとう虫、お花などの“かわいい”柄がえらばれる。柄は柄でもその柄は、模様でもパターンでもなく、どこかメルヘンチックで乙女チック(girly)なひとがら( 女性 ひと  柄)の柄である。

柄には、柄のくりかえしにそってアコーディオンプリーツがほどこされる。プリーツの山が柄の一部を見せ、谷が一部を隠す。柄の部分的な接続と遮蔽によって、あらたな連続とヴァリエーションへと変容させる。格子が縞に、水玉が縞や格子や同心円に変異するなど、単純なしかけによって意外な視覚イメージをうみだす。

プリーツはまた、立体造形の方法となる。その造形が、たとえば花・リボン・キャンディー・帽子・星・コップなどのガジェット(gadget、小道具)をかたどっていても、プリーツスカートや、フリルの衿や袖口と同種の造形である。身体にそわせたかたち、それも身体の代謝と運動をふまえたゆとりのあるかたちをおもいうかべさせる。そこには身体はないが、フェミニンな香気がたちこめる。

酒井稚恵の作品は、ファッショナブルなネオテニー(neoteny、幼形成熟)のセクシュアリティをただよわせる。また、作品のかたちから直接みえるモチーフのイメージと、布の表情にはりついているみえない肉体のイメージのあいだの不可思議なギャップのあいだを、観者に往還させる。

作品について酒井稚恵は述懐する。「いつまでも子どもでいてほしいと願っていた両親」に「稚恵(幼い恵みの意)」と名付けられ、育てられた、「幼い少女だった頃に育った感覚は、今につながっています」と。フェミニンなガジェットの作品イメージが、チャーミングな作者と、「稚恵」の名と一体になって、愛すべき稚気が満溢する違和世界に観者をいざなう。

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